
ドイツと言えば、ワークライフバランスの先進国というイメージがあり、実際に国際的な指標においてもドイツの仕事環境は高評価を得ています。一方で、輝かしいドイツの仕事環境イメージとは裏腹に、劣悪な仕事環境も潜んでいます。
僕の知り合いのT君が経験したドイツのブラック企業の内情について、一部内容をぼかしてお伝えします。
ドイツのブラック企業に入社
T君はワーホリビザでドイツにきたアラサーの日本人男性です。半年ほどドイツ語を勉強したら、そのままドイツの企業に就職してEUに永住しよう、というつもりでドイツに引っ越してきました。30歳になってからの初海外ということで、言葉の壁や文化の違いにつまづきながらも、デュッセルドルフの知り合いの伝手を使って憧れの「ドイツ企業」に内定を得ました。
元々、日本文化とは離れた環境で仕事をしたいと思っていたT君は、あえてドイツに進出素ている日系企業を避けての就職を行ったのですが、これが地獄のはじまりでした。
日中はひたすらコールドコール
T君の働くことになったドイツの会社(A社)は、従業員10人くらいの小さな会社で、オンラインサービスを展開する先進的なベンチャー企業でした。T君に与えられたポジションはセールスマネージャーで、ヨーロッパ各地に展開しているアジア系企業への営業が主たる業務です。
セールスマネージャーと言えば聞こえはいいですが、実際にすることと言ったら一日中新規営業の電話を顧客にかけ続けることです。なにせA社はベンチャー企業、サービスはIT業界とはいえ特別な技術がある会社というわけでもなく、実際には飛び込み営業となんら変わらないスタイルの会社でした。
というわけで、朝8時の始業から17時の終業まで、T君の業務内はひたすら新規顧客に電話をかけ続け、売上をあげることです。基本的に、コールドコールと呼ばれる電話での新規営業は、数うちゃあたるの世界ではあるものの、販売するものに優位性が無ければただの押し売りと変わりません。
加えて、T君は典型的な日本人、そこまで押しの強い営業ができるわけもなく、大体は法人の受付電話で断られ、売上をあげることができません。最初の1日、2日は上司も優しかったのですが、1週間、2週間と、売上どころかアポさえとることのできないT君を見かね、次第に上司や同僚の態度も冷たいものとなっていきました。
首切りに怯える日々
ドイツは簡単に社員のクビを切れないと言われますが、それは正社員の話で、試用期間中であったりインターン生であったりすると、契約満了とともに比較的容易に首切りをおこなえます。そんなわけで、T君は最初の半年のうちに何とか実績をあげないといけないというプレッシャーと戦う毎日となりました。
ワーホリビザでドイツに来たT君は1年しかドイツで働くことができず、正社員としてビザを正式に発行してくれないとドイツを去ることとなります。表向きは「8時~17時」のホワイト企業ですが、そうした無言のプレッシャーに耐え兼ね、T君は自宅のパソコンを使用した「サービス残業」に手を染め始めます(基本的にドイツで禁止されているが、黙認されるケースもある)。
T君の業務では日中韓の顧客へのアプローチで、時には本社のある日本や韓国との折衝も含まれます。そうした際には時差の問題で、先方から時に「ドイツ時間夜の3時」といった地獄のようなアポを組まれることもありますが、もはや成果を挙げなくてはいけないT君はなりふり構っていられず、昼夜問わず仕事をする生活をつづけました。
当然、私生活はこんなものでは充実するはずもなく、毎日外食が続き、目標としていたドイツ語の勉強も続けられない状況でした。
精神疲労、そして首切りへ
T君の肉体的、精神的疲労は日に日に蓄積していきました。成果が上がらないT君に分かるように、上司や同僚は冷たい態度をとるようになります。「お前が今月いくらの赤字をもたらしたのか分かってるのか」「なんでこんなこともできないのか」
あからさまな暴力などは振られませんでしたが、もはやT君にとって出社は針のむしろとなっていました。平日の夜はおろか、土日も費やして新規開拓や業界知識をつけることに時間を費やしていたT君ですが、ついに目立った成果を上げることができず契約更新の時を迎えます。
T君の予想していた通り、会社側はT君に対し契約打ち切りを告げます。安月給で半年働いたT君は心身ともに疲弊し、同時にビザも失効することとなったため、ほぼ無一文に近い状況で逃げるようにして日本に帰国しました。
上述の、T君のお話は一部創作を交えていますが、基本的に事実に基づいています。知識や人脈を生かして、ドイツの華々しい世界で活躍する日本人もいる一方、T君のようにすりつぶされて日本に帰ってくる若者も少なくありません。こんなブラック企業への就職を避けるために、近くの日本人仲間などの情報網を使った情報収集は重要ですね。
その他ブラック企業体験記に関しては「ドイツ企業に就職後上司にパワハラされて退職した人の話」を参照してください

新卒で出版会社に働くが、2年で体調を壊し退職。以後30歳近くまで職を転々とし、終いには地元のブラック卸売り企業で年収300万円残業100時間生活を送る。31歳の誕生日直前にドイツにワーホリで渡航。現在フランクフルト在住。